和田アキ子さんの本

おとなの叱り方 PHP新書

和田さんは、新聞社の取材に対して、山岡久乃さんに遅刻を叱られたエピソードを披露している。飲み屋から現場に直行するのが重なって、空きっ腹に飲んで、胃けいれんを起こし、ドラマの撮影が滞ったらしい。一人が遅刻すると全体に影響することもあって、山岡さんに一喝されたという。自分一人のために沢山の人が影響を受けるという事実は、人をはっとさせるところがあるし、歌手として人気があったそうなので、人気がある人にはあまり誰も何も言わないところがあるだろうから、遠慮なく一喝できる人が新鮮だったかもしれない。その後、あなたはきっと愛情不足だからと、好物を聞かれ、それを毎日作ってきてくれたという。

毎日同じものだと困るのではないかと思うが、印象的なのはそういうことじゃなくて、毎日時間を割いて、家族でもない自分のために、料理を作ってきてくれる人がいるという、愛情、献身、そういうものの重みだろう。一時的に腹が立っただけでそういうことはできない。言葉で言うだけだと軽く言えるけど、言葉に責任を持つということは、これくらい重いことなのか、というのが実感できる。山岡さんの覚悟のようなものが伝わってくる。それが心を打つのではないか。たんにすごく恐かったということだが。

でも、これは、怒ったらフォローが必要という観点でのエピソードだった。和田さんが意図するところは、相手が落ち込んで、怒ったことがマイナスに働かないように配慮するということかもしれない。しかし、出版社ないし新聞社が想定している読者の需要は、怒って逆に恨まれないようにするにはどうするかといういささか利己主義的な発想のようです。それぞれ微妙に意図が異なっている感じがします。